腕神経叢とは、頚椎から出た神経の枝が、肩まで行く途中で複雑に合流したり分岐したりして、つなぎ換えられる部位です。この部分に損傷が起きると、肩や腕のマヒが発生します。頚部の神経根の損傷でも似た症状か現れるため、区別が難しい場合があります。
腕神経叢が急激に強く引っ張られることで発生します。ラグビーやアメリカンフットボールで肩から衝突し、肩に対して引き下げるような強い力が働いた場合が代表的な例です。そのとき、頭部が反対側に曲がっていると、神経叢を引っ張る力はより大きくなります。
ラグビーやアメリカンフットボールでは、通常、神経叢の一部だけに損傷が起こります。最もよく見られるのは、三角筋を動かす腋窩神経の損傷です。
すべての神経が切れてしまうような損傷は、オートバイや自転車などによる高速・高強度での衝突で起こります。この場合、腕神経叢が頚椎から神経根ごと引き抜かれるような状態になります。これを特別に引き抜き損傷と呼ぶことがあります。 続きを読む
頚椎は頭を支えるだけでなく、神経の束である脊髄を保護する役割を持っています。脊髄には腕、体幹、脚に向かう神経が集まっているので、頚椎こして頚髄(頚部の脊髄)が損傷を受けると、重大な手足のマヒを引き起こしたり、ときには死亡したりすることもあります。
ラグビーやアメリカンフットボールのタックルで、頚部が過度に前屈あるいは後屈したときに起こります。また、頭頂部からの衝突でも起こることがあります。
その他、体操競技やトランポリンでの転落や着地の失敗、水泳での飛び込みも原因になります。
水泳の飛び込みによる頚髄損傷は、学校における体育の授業中に発生することがあります。飛び込み角度が深すぎることや、飛び込みに適さない浅い場所での飛び込みが原因となっています。 続きを読む
頭部から衝突して首が後方や後側方に反らされたとき、肩や腕に、灼熱感あるいは鋭いしびれが走ることがあります。これを、アメリカンフットボールの世界ではバーナー症候群と呼んでいます。バーナーで焼かれるような症状があるところから、こう呼ばれているのです。相撲の世界では「電気が走る」と表現しています。
バーナー症候群自体は、特に心配すべき障害ではありません。 続きを読む
頭蓋骨の中で発生する出血のすべてを含めて頭蓋内出血といいます。出血する部位によって、硬膜外出血、硬膜下出血、くも膜下出血、脳内出血などに分けられます。
頭部に強い衝撃が加わることにより、頭蓋内のどこかで血管が切れて出血が起こります。スポーツ中に起こる頭蓋内出血の代表的なものは、脳の表面と硬膜(頭蓋骨の内側を覆う膜)との間をつなぐ架橋静脈に起きます。頭部に衝撃が加わり頭蓋骨が急激に回転すると、硬膜と脳のずれが大きくなります。そのため、架橋静脈が引っ張られて切れ、硬膜下に出血が起こるのです。
頭部に硬い物体が衝突して起こる頭蓋内出血では、頭蓋骨の骨折を伴うこともあります。この場合には、硬膜外出血という形をとります。最も重篤なのは、頭蓋骨骨折とともに、脳そのものに損傷を受ける脳挫傷を伴うものです。これは投てきのハンマーの衝突などで起こります。
まれに、頭部への衝撃がないにもかかわらず、スポーツ中に脳内出血が起こることがあります。こうした例の中には、もともとあった脳の血管の動脈瘤が競技中の血圧上昇で破裂したと思われるものや、生まれつきの脳血管の奇形などが原因となるものが含まれています。
頭部に衝撃を受けた直後から、意識がないとは限りません。最初は応答可能な状態ですが、時間経過とともに悪化し、激しい頭痛、嘔吐、意識消失と、進行する場合があります。これらの症状は、出血の量が増えることにより、頭蓋骨内で脳が圧迫されることによって起こります。出血が少ないと症状の出現が遅れることがありますが、ほとんどの場合、数分から数時間以内に現れます。
現場で症状の経過を観察し、CTやMRIで出血を確認して診断します。
頭蓋内出血が凝われる場合には、吐いたもので気道が詰まらないように昏睡体位を取らせ、救急車を待ちます。
出血がたまって血腫ができている場合には、脳の圧迫を軽減させるため、血腫を取り除く手術が行われます。この治療は時間が勝負となります。時間が経って血腫が大きくなり、脳の損f葛が大きくなると、回復できる程度にも限界があるからです。
タックルや受け身など競技の基本動作を習得することや、頚部の筋力強化に取り組むことが予防に役立ちます。
また、ボクシング、ラグビー、アメリカンフットボールなど、頭蓋内出血の危険性が高い競技の選手は、透明中隔嚢(脳の中央部分に異常な空洞がある)や、くも膜嚢腫(くも膜に液のたまった袋がある)といった異常がないことをチェックします。異常が発見された場合には、これらの競技を行うのは好ましくありません。
脳は重要な臓器で、運動するためにも、試合の戦略を考えるためにも、人間らしく生きるためにも、欠かすことのできない働きをしています。
脳しんとうとは、頭に衝撃を受けることで、意識に変化が起こるものの、出血などの明らかな変化がなく、比較的短時間で回復するものを指します。明らかな異常がないものを脳しんとうと診断するため、このとき脳で何が起きているのか、はっきりしたことはわかっていません。
頭蓋骨の中には脳脊髄液という液体が満たされ、その中に脳があります。水を入れたボウルに豆腐が浮いている状態とよく似ています。
頭部に強い衝撃が加わると、頭蓋骨の動きに脳がついていけず、脳と頭蓋骨の間のずれが大きくなります。そのため、頭蓋骨の内側と脳の表面をつなぐ血管が引つ張られ、意識障害などの症状が現れるのではないかと考えられています。
衝撃には、前後方向に加わるものと、頭を回転させる方向に加わるものの2種類があります。
タックルなどで選手との衝突で起こる場合は、回転方向の衝撃が多いようです。回転方向の衝撃が加わると、脳はその回転と逆方向にずれます。 続きを読む
スポーツによる障害の中には、神経が損傷されるケガや、神経が摩擦や圧迫により炎症を起こすケガがあります。
神経細胞は軸索突起という非常に長い突起を持っています。この突起が束になり、目に見える太さの神経を構成しています。
神経の損傷には、内部の軸索突起のみの損傷から、神経の束を取り囲む周膜という膜も含めて完全に切れる損傷まであります。神経が強い圧迫を受けた場合には、軸索突起の損傷が起こり、軸索突起内の流れが途絶することがあります(①)。途絶した部位から末梢寄りの軸索突起が壊死することもあります(②)。さらに、軸索が切れてしまう損傷(③)、や、周囲組織や周膜まで損傷されるもの(⑤)もあります。
たとえば、肘の内側の尺骨神経を打撲して手の小指側がしびれても、数分で回復するのは、①タイプの障害だからです。手枕をして眠ったために、手関節や指が伸展できなくなり、回復まで1ヵ月以上かかることがあります。これは②タイプの損傷です。骨折に伴って神経が切れている場合には、⑤の損傷になります。
①~③の損傷は、多くの場合、軸索が自然に回復したり、再生したりして治ります。軸索の再生速度は中枢側ほど速く、末梢では遅くなります。たとえば、肩や肘では1日に5mm程度の速度で再生しますが、手関節では1~2mmです。
また、⑤の場合、軸索が伸びるための道すじも損傷しているので、これが離れていると軸索の再生は起こりません。その場合、神経盛という神経のこぶを作ってしまい、痛みやしびれが残ります。したがって、⑤のような損傷では、神経の周囲の膜を縫い合わせる手術が必要になります。
スポーツでは、関節部分に大きなカが加わることがしばしばあります。その結果、関節が壊れる障害が発生します。
固定を行うことが大切です。それには、サポーター、ブレース、テーピングなどによる圧迫と固定が効果的です。
靭帯が骨から剥がれるように損傷を受けた場合、もし元の付着部に癒合しないと、靭帯にゆるみが残り、不安定な関節になってしまいます。このような後遺症を残さないためには、治療の初期に適切な圧迫を加え、癒合を助けることが大切です。損傷を受けてから数週間以上が経
過し、その時点で圧迫し直しても、不安定性を改善することはできません。 続きを読む
腱は筋肉の収縮力を骨に伝えているだけではなく、自らも伸びることでエネルギーをたくわえ、スポーツの動作にも関係しています。ただ、強度には限界があり、アキレス腱のように強靭な太い腱でも、強い力が加われば切れることがあります。
腱に加わる力と腱の長さ(伸び)との関係は数十年前の研究で明らかになっています。これによると、腱が4%程度伸ばされるとコラーゲン線維の一部が断裂し、8%伸ばされると全体的な断裂が起こるこになっています。
スポーツ選手の日常的なトレ一二ングにおいて、腱がどのくらい伸びているかについては、数%から十数%までさまざまな見解があります。明確なことはわかりませんが、トレーニング中にコラーゲン線維の一部が損傷している可能性はあります。
このようなメカニズムで腱のコラーゲン線維の一部が切れ、それに対する炎症や修復反応が起こっているのが「腱炎」と呼ばれる状熊です。ただ、他の運動器の損傷と異なり、明確な炎症の所見がないことから、「腱炎」よりも「腱症」と呼ぶほうが適切ではないかという意見もあります。
腱の内部に硬いしこりができて動きを妨げる場合には、それを取り除く手術が行われることがあります。それ以外は、積極的な治療方法がありません。 続きを読む
筋肉に起こる急性のケガとして、最も身近なのは筋線維が切れる「肉ばなれ」でしょう。外部からの力を受けておこるのではなく、自分の動作や筋力によって筋線維が切れてしまうのです。
肉ばなれを起こすときに発揮されている力は、筋肉が縮もうと短縮するとかこ発生する力(短縮性収縮あるいは求心性収縮)ではなく、伸ばされながら発生する力(伸張性収縮あるいは遠心性収縮)であることがほとんどです。英語では、このような収縮をeccentric contractionと呼び、日本でもエキセントリック収縮という言葉が使われるようになっています。
肉ばなれが最もよく発生するのは、大腿の後ろ側のハムストリングです。その他、大腿の前側の大腿四頭筋、ふくらはぎの勝腹筋にもしばしば見られます。これらの筋肉に共通しているのは、2つ以上の関節を越えて伸びる2関節筋であるということです。2関節筋は、2つの関節の動きの影響で長さの変化が大きく、2つの関節が筋肉に対して同じ作用を及ぼす方向に働くとは限りません。こうした特徴があるために、損傷が起こりやすいと考えられています。
たとえば、ランニング中に接地している脚のハムストリングは、股関節を伸展させるために収縮して力を発生させますが、膝が伸展することで伸ばされます。そのため、伸張性収縮が起こり、肉ばなれが発生しやすくなるのです。
肉ばなれでは、筋線維が急に引っ張られ、ちぎれるように切れます。英語では、muscle strainと表現されます。実際に超音波検査やMRIの画像を見ると、筋線維から腱や腱膜(筋膜)につながる連結部で切れていることがわかります。
力が加わって損傷が生じるときには、力学的に最も弱い部分に損傷が生じると考えられます。筋肉であれば、筋線維の途中で切れるよりも、筋線維と腱などの連結部、つまり伸び縮みの性質の異なる境界部分で、切れるのだと解釈できます。
筋線維が切れたことで生じた隙間には、おそらく血液などの体液がたまります。やがでその中に、腱や腱膜と筋線維をつなげるための線維組織(筋線維とは異なる、腱に近い組織)ができ、隙間が埋められていきます。十分な強度で線維組織ができ、腱刎幽莫と筋線維とがつなげられると、筋肉の収縮に耐えられるようになり、筋腱複合体としての機能が回復します。このように回復するまでの期間はだいだい1ヵ月程度と考えられます。
肉ばなれでも、より強い力が加わったときには、大量の筋が切れることがあります。その場合には、肉ばなれというよりも筋の部分断裂と呼ぶほうが適当です。ハムストリンングや大腿直筋では、1つの筋の半分以上(ときには全体)が切れるような筋断裂が起こることもあります。 続きを読む
軟骨は骨に比べて再生能力が低く、損傷を受けると元通りに治りにくい組織です。
スポーツ中に発生する軟骨の障害で、特に成長期の選手によく見られるのは、成長軟骨部の損傷です。これらを総称して「骨端症」といいます。
膝に発生するオスグッド病が最も有名ですが、その他にも、かかとの骨に発生するシーバー病、足の中足骨頭に発生するフライパーク病など、多数の骨端症があります。これらの病名は、いずれも研究者の名前から取られたものです。
成長期には骨の両端の関節より少し離れた部位に成長軟骨層があります。この成長軟骨より中心側を骨幹部、成長軟骨より先端側の部分を骨端核といいます。
骨端症が発生するメカニズムはさまざまです。骨端核に付着する靭帯や腱で引っ張られて成長軟骨層が引き裂かれるタイプもあれば、荷重や筋力によって圧迫力を受けて起こるタイプもあります。
たとえば、オスグッド病は、大腿四頭筋の引っ張る力が、膝蓋腱を介して脛骨の骨端核に作用することで起こります。シーバー病は、足底腱膜やアキレス腱の張力により、骨端核が圧迫を受けて発生します。成長軟骨層が張力を受けたときのウイークポイントになる成長軟骨層のために、血管が伸びることができず骨端核が血流不足になる、といった原因もあります。
骨端症は、強い負荷がかからないようにスポーツの量や強度を調節することで、基本的には落ち着きます。ただし、中にはペルテス病のように、大腿骨の骨端核がしてしまう危険性があるものもあります。この場合には、体重がかからないようにする厳重な管理が必要になります。
関節を構成する向かい合った骨の表面は、関節軟骨で覆われています。成長途上の子どもは、関節軟骨も厚くなっています。離断性骨軟骨炎は、関節軟骨とその下にある骨の一部が周囲から剥がれ、関節炎症状を起こす障害です。
剥がれ方によって、①骨軟骨片に浮き上がりがないもの、②滑軟骨片が浮き上がって関節表面に突出しているもの、③骨軟骨片が関節表面から完全に離れているもの、という3タイプに分類できます。
完全に離れた骨軟骨片は、関節内遊離体あるいは関節ネズミと呼ばれています。関節の中を動き回り、いろいろな部位にはさまって関節の動きを妨げます。
このような骨軟骨の離断がなぜ起こるのか、必ずしも明らかにはなっていません。ただ、体重のかかる下肢の関節では、ジャンプ、着地、方向転換など、強い衝撃が加わることが原因ではないかと考えられています。最も発生しやすいのは膝ですが、足関節、肩、肘に発生することもあります。
骨軟骨片の浮き上がりが軽い場合や、直接に接触することがない部位で起きている場合は、関節に水がたまるなどの関節炎症状くらいしか現れず、この病気独特の症状でないため、見逃されることがあります。
この股階であれば、骨軟骨片の底に細い針金で穴を開けるドリリングという治療を行い、骨の中心からの血行を促します。
骨軟骨片が剥がれて関節内遊離体になっている場合には、関節内ではさまる陥頓症状を引き起こす危険があるため、取り除く手術が必要になります。
関節友面の向かい合う形が変化してしまうと、関節の動きに支障が出ます。可動域が制限され、伸ばしきれない、曲げきれないなど、変形性関節症のような症状が現れることになります。